• ボイスドラマ「潮風のロッキングチェア」後編
    Feb 4 2025
    登場人物(※設定は毎回変わります) ・孫娘(5歳/25歳)・・・海外で海洋アドベンチャーガイドをしている。幼い頃は海辺のビーチハウスで祖父と暮らしていた(CV:桑木栄美里) ・祖父(70歳/享年75歳/23歳)・・・民俗学者。亡くなる直前までビーチハウスで25年間一人で暮らしてきた(CV:日比野正裕) ・祖母(享年32歳/25歳)・・・海辺の町で海女として暮らしていたが祖父と知り合って結婚。ビーチハウスで暮らしたが若くして逝去(CV:桑木栄美里) <祖父23歳/祖母25歳> 祖父: 「前略 初めて貴女と出会った日のこと、覚えていますか? 渚を見つめていた私の前に、波の中から現れた貴女は、 まるで人魚のようでした・・・」 (SE〜海から人が現れる音「ザバ〜ッ」) 祖父: それは予想もしない出来事だった。 海辺の村に伝わる民話を集めるため、浜辺を歩いていたそのとき。 波の合間から突然”人魚”が現れたのだ。 いや本当に、最初は”人魚”が打ち上げられたのかと思った。 白い磯シャツに白い巻きスカート。 白い磯ずきんを被った彼女を見て、思わず尾鰭(おびれ)を探してしまった。 彼女は、海女。 海に潜って、海産物を採ってくる、あの海女だ。 午後の海女漁に備えて、渚で体を慣らしていたのだという。 祖母: 「そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいわ・・・」 祖父: 「あ、いや・・・これは失礼」 祖母: 「ひょっとして、学者先生?」 祖父: 「え・・・あ、そうです・・・・けど、どうして?」 祖母: 「だって、そんな格好した人、このあたりにはいないもの。うふふ」 祖父: 海面に反射する日差しよりも眩しい笑顔。 その日、私は初夏だというのに、ダークグレーのスーツを着て 波打ち際を歩いていた。 私は大学の研究室で民俗学を専攻する助教授。 こうやって、全国の民話や伝承を採訪(さいほう)している。 この町を訪ねたのも、わずかながら”人魚伝説”が残っていたからだ。 祖母: 「ひょっとして私のこと、人魚かなにかと勘違いしていません?」 祖父: 「え・・・」 祖母: 「あら、やだ。図星なの?」 祖父: 「いえ、あの・・・私は民俗学を研究している学者で、 全国の民話や伝承を探して訪ねているのです」 祖母: 「それで人魚を・・・?」 祖父: 「人魚だけじゃないんですけどね。 海や山や里でいろんな民話や昔話を集めています」 祖母: 「ふうん・・・じゃあ、よかったら私のうちに来ませんか?」 祖父: 「え、そんな・・・いきなり・・・」 祖母: 「大丈夫ですよ・・・私、ひとりですから」 祖父: 「余計にだめでしょ」 祖母: 「面白いひと・・・。 海女小屋をもう少し住みやすく改造しただけですから、お気遣いなく」 祖父: 「でも・・・」 祖母: 「岩場の向こうなので歩いてもすぐよ。さ、行きましょ」 祖父: 「は、はい・・・」 (SE〜波の音) 祖父: そこは、海女小屋というより、まさにビーチハウスだった。 彼女のセンスを感じさせるホワイトウッドの外壁。 ウッドデッキには2人がけのロッキングチェアが静かに揺れている。 彼女は玄関ではなく、浜からそのままウッドデッキに僕を迎え入れた。 祖母: 「座って。 といってもロッキングチェアと小さなガーデンテーブルしかないけど」 祖父: 「失礼します」 祖母: 「やあねえ、そんな、かしこまらないでよ」 祖父: 「でも・・・」 祖母: 「今朝採ってきたサザエの余りがあるから、一緒に食べない? 炭火で焼いてあげる」 祖父: 「あ、はい・・・」 (SE〜炭でサザエを焼く音) 祖父: 採れたてのサザエがこんなに美味しいなんて、初めて知った。 彼女がひとりで住んでいる理由(わけ)は、 一緒に住んでいたおばあさんが1年前に亡くなったから。 おばあさんも昔から海女だったという。 この日を境に、僕はビーチハウスに毎日通い、 彼女から、この地方に伝わる不思議な民話をいっぱい教えてもらった。 なかでも興味深かったのは、 海の向こうにあるという「常世の国(とこよのくに)」伝説。 不老不死の国である。日本の神話に近いかもしれない。 もともと僕にも家族がなく、彼女...
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    9 mins
  • ボイスドラマ「潮風のロッキングチェア」前編
    Feb 4 2025
    登場人物 ・孫娘(5歳/25歳)・・・海外で海洋アドベンチャーガイドをしている。幼い頃は海辺のビーチハウスで祖父と暮らしていた(CV:桑木栄美里) ・祖父(70歳/享年75歳/23歳)・・・民俗学者。亡くなる直前までビーチハウスで25年間一人で暮らしてきた(CV:日比野正裕) ・祖母(享年32歳/25歳)・・・海辺の町で海女として暮らしていたが祖父と知り合って結婚。ビーチハウスで暮らしたが若くして逝去(CV:桑木栄美里) <孫娘25歳/孫娘5歳&祖父70歳> (SE〜波の音) 孫娘: 祖父を見送った午後、私はビーチハウスのテラスでくつろいでいた。 (SE〜波の音+ロッキンチェアの音) 孫娘: 祖父は祖母が亡くなったあと、40年以上もここにひとりで暮らしていた。 ロッキングチェアに腰かけ、海風に揺られていると 祖父と過ごした子供時代を思い出す。 祖父: 「おーい」 孫娘: 「おじいちゃ〜ん」 祖父: 「こっちだよ」 孫娘: 「わあ!」 祖父: 「きれいな海だろう」 孫娘: 「うん!おじいちゃん、ここに一人で住んでるの?」 祖父: 「いや、おばあちゃんとずっと一緒だよ」 孫娘: 「え?どこ?」 祖父: 「おじいちゃんの心の中」 孫娘: おばあちゃんが旅立ったのは、私が生まれるずうっと前。 おばあちゃんの顔は写真でしか見たことがない。 2人がけのロッキングチェアは私には大きすぎたけど、 おじいちゃんの隣にくっついて座る。 大好きなブランコとも違う、ゆらぎの空間。 波の音を子守唄に、いつしか私は眠りに落ちていった。 (SE〜波の音) 祖父: 「風邪ひくよ・・・」 孫娘: 「う〜ん・・・」 祖父: 「アップルパイが焼けたから、なかのダイニングで食べよう」 孫娘: 「え〜、ここで食べたい。ここで食べた方がおいしい」 祖父: 「ああ、そうかそうか。じゃあひざかけを使いなさい」 孫娘: ハイビスカスをあしらった花柄のひざかけ。 それはおばあちゃんの手編みだと、あとから知った。 テラスのウッドデッキに面したダイニングの掃き出し窓。 日差しをやわらげる白いシェードが優しい光を届けてくれた・・・ (SE〜波の音) 孫娘: あれから20年。 テラスのシェードはところどころ布が透けて、 ウッドデッキのインテリアにまだら模様の光を落とす。 ロッキングチェアに座り、目を閉じると あの頃みたいにゆっくりと微睡(まどろみ)に包まれていった。 それは夢だとすぐに気づいた。 おじいちゃんとおばあちゃんが寄り添ってロッキングチェアに座っている。 おばあちゃんは写真で見た顔より若く見える。 2人とも若い。20代、かな。 おじいちゃんは、私を見つけると大きく手を振った。 祖父: 「おーい」 孫娘: おばあちゃんは何も言わずに優しく微笑んでいる。 私はいまと変わらず25歳のままだけど、 子供のような笑顔で2人の元へかけていく。 祖父: 「さあ、おすわり」 孫娘: おばあちゃんは立ち上がり、私をロッキングチェアに座らせる。 祖父: 「ゆっくりしていきなさい」 孫娘: 「うん」 孫娘: 祖父に寄り添った祖母が私に何かを話しかけている。 何度も聞き返すけど声は聞こえない。 レースのカーテンをひくように、景色がゆっくりとぼやけていった。 (SE〜波の音) 孫娘: 頬をなでる潮風が、私を夢の国から引き戻す。 自分ではまったくそんな意識はないのに、涙が頬を伝っていた。 海に沈む夕陽が、シェードをオレンジに染めている。 私はゆっくりとロッキングチェアから起きあがった。 そのとき私の目に映ったのは、小さな赤色。 背もたれと座面のネイビーブルーの間にはさまった赤。 それは、膝掛けと同じ花柄の小さな布袋だった。 袋の中に包まれていたのは、小さく折り畳まれた手紙。 これ、開けて、いいのかな・・・ (SE〜布が落ちる音「バサッ」) 手のひらに手紙をのせて悩む私の後ろで、なにかが音を立てた。 どうやら海からの風が、ソファからひざかけを落としてしまったようだ。 おばあちゃん・・・ 目を閉じると、祖母の笑顔が浮かんでくる。 意を決して手紙を開くと、 おばあちゃんではなく、おじいちゃんの文字が目に飛び込んできた。 ...
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    9 mins
  • ボイスドラマ「天の川の約束」後編
    Feb 3 2025
    登場人物 ・女性(39歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とはつきあって2年目(CV:桑木栄美里) ・男性(37歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニア弁護士。シニアを目指している(CV:日比野正裕) <女性39歳/男性37歳> (SE〜空港の雑踏) 女性: 「それじゃまた・・・」 男性: 「ああ。また来年」 女性: 今年も私たちの逢瀬は終わった。 一年に一度。 牽牛・織女(けんぎゅう・しょくじょ)の伝説のように、 天の川を超えて彼に会いにいく。 こと座のベガ、わし座のアルタイル。 これに、はくちょう座のデネブを加えた、 ”夏の大三角”が東の空へ昇るころ、私は機上の人となる。 (SE〜飛行機が離陸する音) (SE〜飛行機の機内) 機内アナウンス: 当機は今、中部国際空港への着陸態勢に入っております。 天気は晴れ、時間は9時5分です。 お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。 女性: 次の年も約束の日がめぐってきた。 紙のタンブラーからエスプレッソを飲み干し、 スマホでモバイルチケットを確認する。 今日はいつもの往復搭乗券ではない。 大切な話を彼にするために、片道(ワンウェイ)チケットだ。 (SE〜空港のロビー/スーツケースを引く音) 女性: 早く会いたい。彼の顔が見たい。 ボーディングブリッジを通り、到着ゲートを抜け、 検疫検査、入国審査をすませ、手荷物を受け取って到着ゲートへ。 私は足早に到着ロビーで待つ彼の元へ・・・ え・・・いない・・・? 彼の姿が見当たらない。 いつもミーティングポイントの一番前で私を出迎えてくれるのに。 時間まちがえてる? ううん、仁川(インチョン)でトランジットの際に、LINE入れてるもん。 不安な思いが一気にからだ中をかけめぐる。 まさか事故にでもあったのかしら? だめだめ、不吉なこと考えちゃ。 いいわ、30時間のフライトでくたくたなんだから、 カフェでお茶でも飲んで落ち着きましょう。 (SE〜LINEの着信音) 女性: あ、LINE。彼だわ。 え?プレミアムラウンジにいる・・・? どういうこと? (SE〜プレミアムラウンジ) 男性: 「こっちこっち」 女性: 「どうしたの?ラウンジなんかで」 男性: 「実は見せたいものがあるんだ」 女性: 「なに?」 男性: 「これ・・・」 女性: 「なにこれ?」 男性: 「L.A.の弁護士事務所からのオファーだよ」 女性: 「え・・・どういうこと?」 男性: 「僕もL.Aに行く」 女性: 「え〜!」 男性: 「もう離れていたくないんだ」 女性: 「そんな・・・」 男性: 「一緒にいたいんだ」 女性: 「でも・・・」 男性: 「でも?・・・同じ気持ちだと思ったのに・・・」 女性: 「同じ気持ちだよ」 男性: 「じゃあどうして・・・」 女性: 「だって私、もうL.Aに戻らないつもりで帰ってきたんだもん」 男性: 「え・・・」 女性: 片道(ワンウェイ)チケットの理由は、L.A.の支社を退職してきたから。 年に一度の逢瀬で我慢できるほど、私は若くない。 会社に伝えた退職理由は、ベッドとマットレス。 ”外国人の体型に合わせたマットレスでは、とても熟睡できません。 何年ものストレスで身も心もくたくたです” これがオフィシャルな理由だ。まあ、間違いではないけれど。 でも本当は・・・ただただあなたに会いたい! 男性: 「そうだったんだ・・・」 女性: 「そうよ。だからL.A.からのオファー、ことわって」 男性: 「え〜」 女性: 「まずは、インテリアショップへ行きましょ。 2人でゆったり寝られるサイズで 体を包み込むようなコイルスプリングのマットレス、買わなきゃ」 男性: 「え・・・ってことは・・・」 女性: 「1分でも1秒でも、長く一緒にいたいの」 男性: 「異議なし」 女性: 私たちはコーヒーを何杯もおかわりしながら、これからのことを話し合った。 一番近い未来の予定はもちろん、インテリアショップ。 2人だけの生活の準備、はじめないと。 彼の腕にくっつきながら、私はもうワクワクがとまらない。 幸せはこうやって自分の手でつかんでいく。 それが私の生き方だから。
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    7 mins
  • ボイスドラマ「天の川の約束」前編
    Feb 3 2025
    登場人物 ・女性(36歳/29歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とつきあって7年目(CV:桑木栄美里) ・男性(34歳/27歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニアアソシエイト (CV:山崎るい) <女性36歳/男性34歳> (SE〜街角の雑踏) 男性: 「転勤!?」 女性: 「うん・・・」 男性: 「・・・いつから?」 女性: 「来月・・・」 男性: 「・・・そっかぁ・・・で赴任先は?」 女性: 「L.A.」 男性: 「え・・・」 女性: 「うちの会社、来月L.A.ブランチをオープンするの」 男性: 「・・・そう・・・」 女性: 「私、あなたと出会う前から、海外勤務の希望を出してたんだ」 男性: 「じゃあ、願いが叶ったんだね」 女性: 「うん。でも・・・」 男性: 「よかったじゃないか」 女性: 「え・・・」 男性: 「お祝いしなきゃ。盛大にやらないと」 女性: 「・・・うん・・・」 男性: 彼女から告げられた、突然の海外赴任報告。 実は、僕にはまるで死刑宣告のように感じられた。 <女性29歳/男性27歳> (SE〜インテリアショップ店内) 男性: 彼女と初めて出会ったのは、いまから7年前。 インテリアショップで、僕がオフィスに飾る絵を探していたときだ。 オフィスと言っても、小さな弁護士事務所。 僕は27歳だったけど、弁護士になりたて、1年目のジュニアアソシエイトだった。 立ち止まって眺めていたのは、モンローをコラージュしたキラキラ系の絵画。 怪しく微笑むブルーグレイの瞳に、僕は長いあいだ、魅入られていたんだ。 女性: 「うふふ・・・」 男性: 小さく、控えめな笑い声で、僕は我に帰った。 男性: 「あ・・・」 女性: 「あら、ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど」 男性: 彼女は、大手IT企業に務めるWebデザイナー。 僕よりふたつ年上の人気クリエイターだった。 女性: 「私もモンローは好きよ。 ノーマ・ジーンの方がもっと好きだけど」 男性: 「あなたもインテリアを探しに?」 女性: 「そう。私をゆっくり眠らせてくれるインテリアをね」 男性: 聞けば、仕事は多忙を極め、睡眠不足の毎日。 安眠できるベッドを探しにインテリアショップへきたのだという。 女性: 「睡眠導入剤に頼るのはいやだから」 男性: 僕も彼女も、もちろん、リアルなモンローはしらないけれど、 セクシーな笑顔にはお互い共感していた。 イヴ・モンタンには程遠かったけど、 1960年の映画「恋をしましょう」のように、僕たちの物語ははじまった。 気がつけば、あっという間に7年という月日が流れていた。 (SE〜街角の雑踏) 女性: 「おまたせ」 男性: 「行きたいところ、ある?」 女性: 「枕とマットレスを見に行きたい」 男性: 別に意識しているわけじゃないんだけど、 僕たちのデートスポットはなぜかいつもインテリアショップ。 今日も、コイルスプリングという素材のマットレスに出会って 彼女のテンションはどんどんあがっていく。 ベッド、枕にシーツ、かけぶとん・・・ 彼女の睡眠環境がみるみる充実していく。 一緒にインテリアを見てまわるうちに、 いつしか、彼女との未来を思い描くようになっていった。 「七年目の浮気」 じゃあないけれど・・・ 七年目のある日、L.A.転勤という判決がいきなりつきつけられてしまったんだ。 (SE〜レストランの雑踏/ワイングラスの乾杯の音) 男女: 「乾杯」「乾杯」 男性: 「ねえ・・・ひとつだけお願いがあるんだ」 女性: 「・・・なあに?・・・引き止めるならいまよ」 男性: 「え?」 女性: 「やだ、真剣な顔。冗談に決まってるじゃない」 男性: 「だよね・・・あの、僕たち・・・」 女性: 「え・・・」 男性: 「僕たち、これから毎年、この日に会わないかい?」 女性: 「この日・・・星祭(たなばた)の日?」 男性: 「そ、牽牛・織女の逢瀬のように」 女性: 「雨が降ったらどうするの?」 男性: 「カササギにお願いすればいい」 女性: 「そのときは私がカササギになってあげる」 男性: 笑顔のなかに変わらぬ思いを確信したいま、 僕はやっと、彼女のL.A.行きを誇らしいと感じた。 僕たちの道はまだ、未来へ続...
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    5 mins
  • ボイスドラマ「JUNE BRIDE」後編
    Feb 2 2025
    登場人物 ・妹(8歳/17歳)・・・10歳も年の離れた姉を慕っている(CV:桑木栄美里) ・姉(18歳/27歳)・・・年の離れた妹と仲良し。結婚式直前のある日・・・(CV:桑木栄美里) ・父(44歳/53歳)・・・なにより娘たちを愛する歴史学専攻の大学教授(CV:日比野正裕) <姉27歳/父53歳> (SE〜ウェディングマーチ〜拍手と歓声) 姉: 愛する妹へ。 この特別な日に、私の心は感謝と慈しみの気持ちでいっぱいです。 そう、私たち2人が大好きなミモザの花言葉のように。 あなたは私の人生のなかで誰よりも尊敬し、愛する存在です。 結婚式の日に、私の心を手紙に託して、 あなたに伝えることができたら、こんなに嬉しいことはありません。 届けたい思いはこんなに溢れているのですから。 (BGM〜Love Songs1) 姉: 愛する妹へ。 あなたが私の妹であることに感謝しています。 あなたと共に育った日々は、私の人生にとって宝物です。 私が一人暮らしを始めるとき、あなたが選んでくれたコンパクトな食卓。 (SE〜インテリアショップのガヤ) 父: さすが私の娘(笑)。 お姉ちゃんの部屋にぴったりだ。 姉: そう。小さくておひとり様にピッタリのサイズだったけど、 グラストップのローテーブルは、すごくオシャレでいつも癒されてた。 授業のあとアルバイトでクタクタになって帰った夜、 食卓に座れば、あなたの温もりを感じてた。 (SE〜家庭のガヤ) 父: 私の娘は、センスがいいなあ。 清楚で上品で、でも華やかで(笑) 黄色いミモザには、「真実の愛」という花言葉もあるんだよ。 姉: あなたが父と遊びにきたとき、食卓に生けてくれる一輪挿し。 ミモザの優しい香りを飽きずにいつまでも愛でていたの。 (SE〜家庭のガヤ) 父: ベルガモットの香りは気持ちをやわらげてくれるんだ。 お姉ちゃん、お前を思い出して優しい気分になると思うよ。 姉: サブライズであなたが届けてくれる茶葉は、大好きなフレーバー。 嫌なことがあった日でも、 一口、口に運べばストレスがすうっと消えていった。 思えば、私たちはいつも一緒に笑い、泣き、喧嘩して、助け合ってきたよね。 その絆があったから、どんな試練にも耐える強さを持てたんだろう。 あなたが選んだ食卓は、可愛らしくて素敵で、あなたそのものだった。 (BGM〜Love Songs2) 姉: 愛する妹へ。 あなたが私の妹であることに誇りを感じています。 忘れないで。 あなたの優しさと強さが、いつも私を支えてくれたことを。 私は忘れない。 この日のために、あなたが真剣にインテリアを選んでくれたあの日。 大きな食卓を見て戸惑う私に、あなたがくれた言葉。 ”これからいっぱい家族が増えて、いっぱい幸せに包まれるから” ”大きな幸せを支える食卓は、大きな食卓でなきゃいけないから” 私は忘れない。 ダブルベッドを選びながら、あなたが目を輝かせて私に言った言葉。 ”いまは大きなダブルベッド。でも次は小さなベビーベッドだから” 私は忘れない。 3人がけのソファに腰かけてあなたがつぶやいた言葉。 ”このかたすみに私の場所もあるといいな” この先、人生は長い長い道のりを歩んでいくけれど・・・ あなたのいない人生なんて、私には存在しない。 あなたの選んだ恋する家具たちは、 私の人生を彩り、生きていくことを喜びに変えてくれるだろう。 (BGM〜Love Songs3) 愛する妹へ。 あなたが妹でいてくれたことが、私の人生の宝物です。 あなたを愛する思いは、言葉では表現しきれません。 あなたは私の人生においてかけがえのない存在です。 さあ、このあとは、あなたが輝く番。 コンパクトな食卓が、大きな食卓へ進化していったように、 あなたの人生も、大きく翼を広げて羽ばたいてください。 これからも、私はいつでもあなたのそばにいます。 姉として、私は誰よりもあなたを応援するし、 誰よりも心が通い合える存在であることに変わりはありません。 結婚は新しい旅立ちですが、私たちの絆は永遠です。 席札の下にこっそりしたためたこの手紙、 あなたの心に届き、思いが伝わりますように。 (SE〜...
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    8 mins
  • ボイスドラマ「JUNE BRIDE」前編
    Feb 2 2025
    登場人物 ・妹(8歳/17歳)・・・10歳も年の離れた姉を慕っている(CV:桑木栄美里) ・姉(18歳/27歳)・・・年の離れた妹と仲良し。結婚式直前のある日・・(CV:桑木栄美里)・ ・父(44歳/53歳)・・・なにより娘たちを愛する歴史学専攻の大学教授(CV:日比野正裕) <妹17歳/父53歳> (SE〜雨の音/家の中) 妹: 「いやあね、今日も雨・・・」 父: 娘がリビングの窓から空を眺めて、恨めしそうにつぶやく。 妹: 「来週は、晴れるかなあ・・・」 父: 「大丈夫。式の日にはきっと晴れるよ。お父さん、晴れ男だから」 (BGM〜雨イメージ「Rain May Come」) 父: それでもまだ、祈るような表情で空を見つめる娘。 正確に言うと、下の、娘。 彼女には、10歳も年の離れた姉妹(きょうだい)がいる。 来週、ジューンブライドになる姉だ。 2人は、妹がまだ幼い頃から 年の差なんてまるで関係なく心を通じ合わせていた。 <妹8歳/父44歳> 妹: 「お姉ちゃ〜ん、これ、かわいい!」 父: 姉の大学入学が決まり、一人暮らしをはじめるとき 家族で行ったインテリアショップ。 妹は、コンパクトな食卓を目ざとく見つけて 大きな声で姉を呼ぶ。 妹: 「お部屋、ちいさくても、これなら大丈夫」 父: さすが私の娘。 姉がワンルームに住むなんてひとことも言ってないのに。 しかも、彼女が推す食卓は、グラストップのローテーブル。 当時のハイトレンドだった。 姉も満面の笑みで妹の頭を撫でる。 年は離れていても、まるで親友のような姉妹だ。 妹: 「ここにお花を置いて、お姉ちゃんと一緒にお茶を飲むの」 父: 「お姉ちゃんは一人暮らしだからね」 妹: 「だから、寂しくないように私がそばにいてあげる」 父: 「お姉ちゃんちは遠くだから、1人じゃいけないよ」 妹: 「う・・・」 父: つぶらな瞳を潤ませて、口をつぐむ娘を見ていると こっちが切なくなってしまう。 結局、なんだかんだと理由をつけ、 姉の暮らす東京まで何度連れていったことだろう。 その都度、食卓の一輪挿しには姉の大好きなミモザを生け、 とっておきの茶葉で紅茶を淹れて、いつまでも語り合う。 そうそう、ミモザの花言葉は「感謝」「友情」・・・ 互いに「感謝」し、「友情」を深めていく。 そんな2人を見るのが、私の一番幸せな時間だった。 <妹17歳/父53歳> (SE〜インテリアショップのガヤ) 妹: 「お姉ちゃん、今度は大きな食卓にするんでしょ」 父: 結婚式の1週間前。 家族で出かける最後のインテリアショップ。 いや、最後じゃないかな。 3人で出かけるのは、最後かも。 彼女は姉と腕を組み、新居の家具を見て回る。 楽しそうな笑顔の合間に見える切ない表情。 まもなく新郎となるお婿さんは、 ハネムーン休暇のためにハードワークをこなしている。 代わりに、姉と新居のインテリア選びを任されたのが、彼女だった。 妹: 「え・・・この食卓? こんなん全然大きくないよ。 だってこれから家族がいっぱい増えるじゃない」 妹: 「ベッドは、シングルからダブルね。 そこにベビーベッドが増えていくんだから」 妹: 「一人暮らしのときは置けなかったソファも必要だよ。 私が遊びに行っても3人で座れるような、大きなソファ」 父: どうやら私の出る幕はなさそうだ。 (SE〜雨上がりのイメージ/小さくさえずる小鳥の声) 妹: 「あ、雨やんだみたい」 父: 「ほらね、お父さん晴れ男だって言ったろ」 妹: 「なに言ってんの。結婚式、来週だよ・・・」 父: そう言いながら、満面の笑みが彼女を包む。 慌ただしく式の準備に追われる姉をサポートしながら リビングで妹と過ごす和やかなひととき。 1週間前のビフォー・ウェディングは、 凪いだ海のように、ゆったりと流れていった。 (SE〜静かに流れるウェディングマーチ〜宴席のガヤ) 妹: 「お父さん、私たちの席こっちだよ」 父: 席札を確かめながら、腰をおろす。 隣に座る娘は、テーブルを眺めて不思議そうな顔をしている。 妹: 「お父さん、席札の下になにかある・・・」 父: 席札に隠れるように折り畳まれた純白のナプキン。 そこに包...
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    8 mins
  • ボイスドラマ「変わらないもの/父のソファ」後編
    Feb 1 2025
    登場人物 ・母(40歳/65歳)・・・主婦/妻とは学生時代、東京で出会い、名古屋で結ばれた(CV:桑木栄美里) ・父(44歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった(CV:日比野正裕) <母65歳/父69歳> (SE〜キッチンで洗い物をする音) 父: 「もう、こんな時間か・・・あの子、まだ帰らないのか」 母: 「ええ。なんでも最近新しくオープンするセレクトショップで 新ブランドの開発をまかされたそうよ」 父: 「ああ、そういえば、そんなこと言ってたっけな」 母: 「さっきメールで、夕ご飯もいらないって」 父: 「まったく、いくつになっても心配ばっかりかけて」 母: 「しようがないでしょ。あなたの娘(こ)だもの」 (BGM〜absent-300473596) 父: 娘がインテリアコーディネーターになった。 それは、私も妻も家具が大好きだったからかもしれない。 私のお気に入りは、3人がけのこのソファ。 大き過ぎもせず、小さくもなく、ちょうどいいサイズと ふかふかの座り心地が私の居場所になっている。 ソファが我が家にやってきたのは、25年前だった。 <母40歳/父44歳> (SE〜インテリアショップの雑踏) 父: 「眠ったみたいだな」 母: 「あなたが大声ださなきゃ、すぐ寝てくれるわ」 (BGM〜good-night-300537089) 父: 生まれたばかりの娘をベビーカーに乗せて、 家具屋の店内をゆっくりと見てまわる。 お目当ては3人並んで寝られる大きなベッド。 寝室の大きさも考えながら、決めるのに難航していた。 そのとき、私の足がとまったのは・・・ 母: 「ソファ?」 父: 「うん、大き過ぎず、小さくもない。 私が真ん中に座って、両横にこの娘と息子が座ってくれたら最高だろうなあ」 母: 「あら、じゃあ私と学校行ってるお姉ちゃんは?」 父: 「同じ柄のひとりがけのソファが2つ、あればいいじゃないか」 母: 「大家族ね」 父: 「ああ、大家族で毎日が楽しくなるぞ」 母: 「この娘と3人で寝られるベッドも忘れずにね」 (BGM〜love-is-forgetting-300540324) 父: こうして、一目惚れしたソファは、家族の中心となった。 末娘を抱いて真ん中に座る私と、両脇に座る長男長女。 もっちりとした座り心地のソファーは、私たち親子をやさしく包み込んでくれた。 それはまるで家族の思いを抱きしめるように。 私たちの姿を見て妻がニッコリ笑う。 ソファーを中心にして、リビングに笑顔の灯りが灯された。 <妻65歳/父69歳> (SE〜玄関をあける音) 母: 「帰ってきたみたいよ」 父: 「まったく」 母: 「優しくしてあげてね」 父: 「わかってる」 母: 「座ったら?」 父: え? あ、そうか・・・ 私は知らず知らず、リビングで立ったままソワソワしていたようだ。 私はようやくソファに腰をおろし、おもむろにテレビをつける。 テレビも、つけていなかったのだな・・・ ふふ・・・。 自分でも気が付かないくらい、娘が心配だったらしい。 (SE〜リビングのドアをあける音「カチャ」) 父: 「おかえり」 娘は必ずリビングに顔を出してから自分の部屋へ行く。 いつも通り・・・に見えるけど、ちょっと、疲れた顔・・・だな。 仕方ない。いろいろストレスもあるだろうから。 私は、トーンを落として声をかける。 「とりあえずソファで休みなさい」 私の声を聴いた娘は、とたんに表情が緩んだ。 笑うとエクボが現れるのは、いまも昔も変わらない。 キッチンから妻が割り込んでくる。 母: 「ホント、変わらないわね」 父: 「なんだい」 母: 「ソファの真ん中と右端を親娘で占領すること」 父: 「いいじゃないか。親娘なんだから」 (BGM〜new-horizon-light-346391042) 父: 娘が生まれたのは、私がまだ町工場を経営していた、44歳のとき。 仕事もちょうど転換期で慌ただしい日々だったが、 夕食後は時間を作り、このソファに座って娘といろんな話をしてきた。 挨拶の仕方、テーブルマナー、言葉遣い、礼儀、作法。 幼いころは泣いたり反抗したりもされたが、 インテリアコーディネーターになった今は、きっと理解してくれているだろう。 ふと気がつけば、上品な笑顔で私...
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    7 mins
  • ボイスドラマ「変わらないもの/父のソファ」前編
    Feb 1 2025
    登場人物 ・娘(8歳/25歳)・・・インテリアコーディネーター/セレクトショップで新ブランド立上げの責任者に抜擢されている(CV:桑木栄美里) ・父(52歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった/少し強面だが心根は優しくて娘思い(CV:日比野正裕) <娘8歳/父52歳> 父: 「よいしょっと」 (SE〜ソファに座る音/キッチンで洗い物をする音=オフで) 娘: 夕食のあと、キッチンで洗い物をする母に背を向け、 リビングのソファにどっしりと座る父。 父: 「ニュースはまだかな・・・」 (SE〜テレビのリモコンを操作する音) (BGM〜fsharp-maj-arpeggio-300270424) 娘: 3人がけのソファは、身長180cmの父が座るととても小さく見える。 小柄な私が一人で座ると、背もたれが視界を遮り巨大な壁となる。 ”なんて大きいソファなんだろう”っていつも感じていたのに。 いつものことだけど、いつも不思議だった。 父: 「お、今日はクイズか!」 娘: 父はTVを見るのが大好き。 仕事から帰ってきてみんなでご飯を食べた後には、 いつものソファで夜遅くまでTVを見る。 ニュース番組、バラエティ番組、スポーツ番組、何でも見て、 何にでも大きな声で答えていた。 父: 「鹿児島県で2番目に大きい島・・・2番目に大きい島は・・・ 屋久島!」 (SE〜テレビの中の音「ピンポンピンポン!」) 娘: 私の方を振り返って口元が綻ぶ。 そして、いつものように、 父: 「こっちにおいで。一緒に見よう」 娘: 私は満面の笑みで父の隣へ飛び込み、並んでテレビを見る。 それは私にとって、至福のひととき。 リビングに響き渡る父の声は、家族を照らす灯りだった。 父: 「明日、みんなでまた家具屋さんに行こうか」 娘: そう言ったあと、気がつくと横から父の寝息が聞こえてくる。 振り向けば、キッチンの母は人差し指を口にあてて笑っている。 この時間が私は一番好きだった。 (SE〜インテリアショップの雑踏) (BGM〜liberosis-347011530) 娘: 私がインテリアコーディネーターになったのは、 父も母もインテリアが大好きだったから。 父は時間があると私を家具屋さんへ連れていった。 娘: 「わあ」 父: 「いろんな家具があって楽しいだろう」 娘: 「うん」 父: 「じゃあ座って目を瞑って。 その家具たちに囲まれた暮らしを想像してごらん」 娘: 「う〜んと・・・」 父: 「そばにパパやママやお姉ちゃん、お兄ちゃんは見える?」 娘: 「うん、見える」 父: 「みんな、笑ってるかい?」 娘: 「笑ってる」 父: 「じゃあ、その家具はいい家具だ」 娘: 「そっかぁ」 父: 「やっぱりおまえは見る目があるなあ(笑)」 娘: その思いは(インテリアコーディネーターになった)今でも変わらない。 自然と笑顔が集まってくる家具たちを、私は提案し続ける。 かつて父は町工場を経営し、妻と子供3人を守るために毎日必死に働いた。 毎日疲れていただろうに、週末は必ず私たちをドライブに連れていく。 勉強しろと言われたことは一度もない。 唯一厳しかったのは「礼儀」と「言葉」。 それもこれも、社会人になったいま、私をかたちづくる素養となっている。 <娘25歳/父69歳> (SE〜玄関をあける音) 娘: 「ただいま」 父: 「おかえり。遅かったな」 娘: 「いま、セレクトショップの新ブランド立上げで忙しいのよ」 父: 「ごはんは?」 娘: 「食べてきた」 父: 「そうか、じゃあとりあえずソファで休みなさい」 娘: 「うふふ・・」 父: 「なんだ?」 娘: 「変わらないなあ、と思って」 父: 「なにが?」 娘: 「ソファも。パパも」 父: 「なぁに言ってるんだ」 (BGM〜インテリアドリーム) 娘: つい最近、ソファの皮を新しく張り替えた。 新しい皮の匂いがするソファの真ん中に、今日も父はどっしりと座る。 その横で、私が父にもたれ気味に座る。 社会に出て目まぐるしく変わる毎日のなかで 変わらない日々の幸せが、そこにはある。
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    7 mins