• ボイスドラマ「潮風のロッキングチェア」後編

  • Feb 4 2025
  • Length: 9 mins
  • Podcast

ボイスドラマ「潮風のロッキングチェア」後編

  • Summary

  • 登場人物(※設定は毎回変わります) ・孫娘(5歳/25歳)・・・海外で海洋アドベンチャーガイドをしている。幼い頃は海辺のビーチハウスで祖父と暮らしていた(CV:桑木栄美里) ・祖父(70歳/享年75歳/23歳)・・・民俗学者。亡くなる直前までビーチハウスで25年間一人で暮らしてきた(CV:日比野正裕) ・祖母(享年32歳/25歳)・・・海辺の町で海女として暮らしていたが祖父と知り合って結婚。ビーチハウスで暮らしたが若くして逝去(CV:桑木栄美里) <祖父23歳/祖母25歳> 祖父: 「前略 初めて貴女と出会った日のこと、覚えていますか? 渚を見つめていた私の前に、波の中から現れた貴女は、 まるで人魚のようでした・・・」 (SE〜海から人が現れる音「ザバ〜ッ」) 祖父: それは予想もしない出来事だった。 海辺の村に伝わる民話を集めるため、浜辺を歩いていたそのとき。 波の合間から突然”人魚”が現れたのだ。 いや本当に、最初は”人魚”が打ち上げられたのかと思った。 白い磯シャツに白い巻きスカート。 白い磯ずきんを被った彼女を見て、思わず尾鰭(おびれ)を探してしまった。 彼女は、海女。 海に潜って、海産物を採ってくる、あの海女だ。 午後の海女漁に備えて、渚で体を慣らしていたのだという。 祖母: 「そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいわ・・・」 祖父: 「あ、いや・・・これは失礼」 祖母: 「ひょっとして、学者先生?」 祖父: 「え・・・あ、そうです・・・・けど、どうして?」 祖母: 「だって、そんな格好した人、このあたりにはいないもの。うふふ」 祖父: 海面に反射する日差しよりも眩しい笑顔。 その日、私は初夏だというのに、ダークグレーのスーツを着て 波打ち際を歩いていた。 私は大学の研究室で民俗学を専攻する助教授。 こうやって、全国の民話や伝承を採訪(さいほう)している。 この町を訪ねたのも、わずかながら”人魚伝説”が残っていたからだ。 祖母: 「ひょっとして私のこと、人魚かなにかと勘違いしていません?」 祖父: 「え・・・」 祖母: 「あら、やだ。図星なの?」 祖父: 「いえ、あの・・・私は民俗学を研究している学者で、 全国の民話や伝承を探して訪ねているのです」 祖母: 「それで人魚を・・・?」 祖父: 「人魚だけじゃないんですけどね。 海や山や里でいろんな民話や昔話を集めています」 祖母: 「ふうん・・・じゃあ、よかったら私のうちに来ませんか?」 祖父: 「え、そんな・・・いきなり・・・」 祖母: 「大丈夫ですよ・・・私、ひとりですから」 祖父: 「余計にだめでしょ」 祖母: 「面白いひと・・・。 海女小屋をもう少し住みやすく改造しただけですから、お気遣いなく」 祖父: 「でも・・・」 祖母: 「岩場の向こうなので歩いてもすぐよ。さ、行きましょ」 祖父: 「は、はい・・・」 (SE〜波の音) 祖父: そこは、海女小屋というより、まさにビーチハウスだった。 彼女のセンスを感じさせるホワイトウッドの外壁。 ウッドデッキには2人がけのロッキングチェアが静かに揺れている。 彼女は玄関ではなく、浜からそのままウッドデッキに僕を迎え入れた。 祖母: 「座って。 といってもロッキングチェアと小さなガーデンテーブルしかないけど」 祖父: 「失礼します」 祖母: 「やあねえ、そんな、かしこまらないでよ」 祖父: 「でも・・・」 祖母: 「今朝採ってきたサザエの余りがあるから、一緒に食べない? 炭火で焼いてあげる」 祖父: 「あ、はい・・・」 (SE〜炭でサザエを焼く音) 祖父: 採れたてのサザエがこんなに美味しいなんて、初めて知った。 彼女がひとりで住んでいる理由(わけ)は、 一緒に住んでいたおばあさんが1年前に亡くなったから。 おばあさんも昔から海女だったという。 この日を境に、僕はビーチハウスに毎日通い、 彼女から、この地方に伝わる不思議な民話をいっぱい教えてもらった。 なかでも興味深かったのは、 海の向こうにあるという「常世の国(とこよのくに)」伝説。 不老不死の国である。日本の神話に近いかもしれない。 もともと僕にも家族がなく、彼女...
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